この解剖記録の題材は架空企業です。実在の企業・団体とは関係ありません。
東邦精密工業(架空)
技術力を伝えているつもりの記載が、読み手には比較材料として届いていない状態を解剖します。展示会経由の来訪者と検索広告経由の来訪者では、サイトに来た時点で持っている前提が違います。その差が誌面のどこに現れているかを見ます。
この会社の設定
- 事業
- 産業機械向けの精密切削部品を受託加工する会社という設定です。試作から小ロット量産までを一貫して引き受け、従業員は約60名。創業は55年前で、現在は二代目が経営しています。
- 想定顧客
- 装置メーカーの設計担当と調達担当を想定しています。設計担当は加工の可否と精度を、調達担当は納期と価格を先に確認する立場です。両者が同じサイトを、違う関心で見に来ます。
- 現在の集客施策
- 年2回の業界展示会への出展が最大の接点です。加えて「精密加工 短納期」などの検索連動広告を通年で出稿し、業界紙への広告掲載と既存取引先からの紹介が続きます。広告の運用は代理店に任せています。
- 感じている違和感
- 問い合わせの件数自体は減っていないものの、価格だけを聞かれる相見積が増えている感覚があります。技術的な相談から始まる引き合いが減り、営業が説明に使う時間が長くなっています。サイトが役に立っているのかどうかが分からない、というのが現在の違和感です。
解剖対象の誌面
この誌面は解剖のために作成した架空サイトの想定です。実在するサイトではありません。
確かな技術力で、ものづくりの未来を支える。
創業55年。高品質・短納期・低価格でお客様のご要望にお応えしてまいりました。
- 01メインビジュアル(工場外観の写真が3枚で切り替わる)
- 02代表挨拶の抜粋(顔写真つき)
- 03事業内容(アイコン3つ・各30字程度)
- 04保有設備一覧(機種名と台数の表)
- 05品質方針とISO認証の記載
- 06選ばれる3つの理由(高品質/短納期/低価格)
- 07お知らせ(最新の投稿は2年前)
- 08採用情報バナー(ページ内で最も大きい)
機械が読み取った事実
| ページタイトル | 東邦精密工業株式会社|精密切削加工 |
|---|---|
| 見出し(h1) | 確かな技術力で、ものづくりの未来を支える。 |
| ナビゲーション項目数 | 7項目(うち1項目が採用情報) |
| 価格・料金の表示 | 確認できず |
| 電話番号の記載 | あり(ヘッダー右上・全ページ共通) |
| 対象顧客の明示 | 「お客様」の表記のみ。業種・企業規模・担当部署の記載は確認できず |
| 実績の数値表現 | 「創業55年」「保有設備42台」「取引先は大手企業様多数」 |
| 加工事例の掲載 | ナビゲーションに項目なし。「技術情報」内に写真6点(説明文なし) |
| CTAの文言と数 | 3種・トップページ内に9か所(うち4か所が採用に関するもの) |
| ファーストビュー内のCTA | 「採用エントリーはこちら」1か所 |
| 更新を示す表記 | お知らせの最新投稿が2年前の日付。著作権表記の年は当年 |
| 第三者認証の記載 | ISO9001/ISO14001 |
- 所見1設備は詳しいが、誰の何を解決するのかが見えない。
- 所見2信頼の材料はあるが、比べる材料がない。
- 所見3最初に目に入る導線が、採用に向かっている。
展示会で名刺を交換した相手と、「精密加工 短納期」と検索して初めて社名を見た相手とでは、サイトに来た時点で持っている前提が違います。現在の誌面は、社名と事業内容をすでに知っている人が会社の信用を確かめに来る順番で並んでいると読めます。検索広告からの初対面の来訪者にとっては、自分の困りごとに触れる記載に出会う前に判断が終わっている可能性があります。相見積が増えている原因を誌面の言葉づかいに求める前に、広告が集めている人とサイトが想定している人がずれていないかを見るほうが、先に確かめられそうです。
マーケティングの流れ(8段)
- ▸市場・顧客
対象は製造業の企業と読めます。ただし、どの業種のどの担当者に向けた誌面かまでは絞り込めませんでした。
根拠:見出しは「ものづくりの未来を支える」、本文中の呼びかけは「お客様」のみです。業種・企業規模・担当部署を示す記載は確認できませんでした。
- ▸伝える課題
読み手が抱えている困りごとへの言及は確認できませんでした。伝えている内容は、自社の設備と体制が中心と読めます。
根拠:トップページの見出しは「代表挨拶」「保有設備一覧」「品質方針」の順です。発注する側の状況や困りごとに触れた記載は確認できませんでした。
- ▸約束する価値
約束は「高品質・短納期・低価格」の3語に集約されていると読めます。3つが同時に成立する条件は示されていません。
根拠:「選ばれる3つの理由」の見出しが「高品質」「短納期」「低価格」。各項目の説明は2行程度です。
- ▸その根拠
根拠は保有設備と認証で示されていると読めます。一方で、短納期や高品質が具体的に何を指すのかは確認できませんでした。
根拠:「保有設備42台」の一覧表とISO9001/ISO14001の記載があります。納期日数・対応可能な公差・不良率などの数値は確認できませんでした。
- ▸流入経路・広告
展示会と検索連動広告が主な入口になっていると伺えます。広告で使われている言葉に対応する記載が誌面のどこにあるかは、確認できませんでした。
根拠:設定資料に「展示会出展」「精密加工 短納期などの検索連動広告」の記載があります。サイト側には、広告からの来訪者を受ける専用ページの記載を確認できませんでした。
- ▸Web上の受け皿
来訪した人が最初に受け取るのは、会社の紹介と採用の案内と読めます。事業の内容にたどり着くのは、画面を数回送った後になります。
根拠:ファーストビュー内のCTAは「採用エントリーはこちら」1か所です。続く2番目のブロックが代表挨拶、3番目が事業内容です。
- ▸期待する行動
期待している行動は問い合わせと読めます。ただし、問い合わせた後に何が起きるかの説明は確認できませんでした。
根拠:CTAは「お問い合わせはこちら」が最も多く使われています。返答までの日数、事前に用意する情報、図面の取り扱いについての記載は確認できませんでした。
- ▸計測する指標
何を計測しているかは、外部からは読み取れませんでした。この段については判断の材料がありません。
根拠:サイト上に計測に関する記載を確認できませんでした。設定資料にも、見ている指標についての記載はありません。
- ▸競合との違い
他社との違いは「確かな技術力」と「対応範囲の広さ」で示されていると読めます。どの相手と、どの条件で比べたときの違いなのかは確認できませんでした。
根拠:「確かな技術力」「試作から量産まで一貫対応」の記載があります。比較の相手・比較の条件・自社が引き受けない範囲についての記載は確認できませんでした。
1ページだけ直すなら
1ページだけ選ぶなら、トップページのファーストビューです。「何を、どの範囲で、どのくらいの期間で引き受ける会社か」を示す1文を、代表挨拶より前に置く形が考えられます。ここだけを変えれば、展示会経由と検索経由で反応の差が出るかどうかを、他の要素を動かさずに観察できます。
確認できた事実
プログラムが機械的に読み取った内容です。
トップページには代表挨拶・保有設備一覧・認証が並び、価格の表示、対象顧客の明示、加工事例の一覧は確認できませんでした。CTAは9か所あり、うち4か所が採用に関するものです。
考えられる仮説
- ▪サイトが、すでに社名を知っている人の確認用として作られてきた可能性があります。展示会と紹介が入口の中心だった時期の順番が、そのまま残っていると読めます。
- ▪相見積が増えている一因として、読み手に渡されている比較の軸が価格しかないことが考えられます。設備台数と認証は同規模の同業でも同様に記載されやすく、差として受け取られにくい可能性があります。
- ▪採用の導線が最も目立つ位置にあるのは、人材確保が当面の経営課題として優先された結果である可能性があります。
別の可能性
その仮説が外れているとしたら。
- ▪取引の大半が既存客と紹介で成立しており、サイトは信用を確かめる場として機能していて、その役割は果たしている可能性があります。
- ▪取引先との機密保持の取り決めにより、加工事例と対象顧客を具体的に書けない事情がある可能性があります。
- ▪検索広告の運用が代理店に任されており、広告文とサイトの記載を突き合わせる機会がこれまで無かった可能性があります。
確認すべきデータ
- ▪直近1年の問い合わせを、展示会・紹介・検索広告の別に分けたときの件数と、見積提出まで進んだ割合
- ▪検索広告から来た人が、トップページのどこまで見て離れているか
- ▪相見積になった案件で、相手が最初に聞いてきた質問(営業への聞き取り10件分)
- ▪広告で使われている言葉と、サイトの見出しに使われている言葉の対応
最初に試すこと
ファーストビューの1文を、引き受ける範囲と期間を示す文言に差し替え、検索広告からの流入に限って問い合わせの数と内容が変わるかを4週間観察する、という試し方が考えられます。ページ全体の作り替えは、その結果を見てから判断できます。
今は断定できないこと
- ▪実際の受注のうち、サイトがどの程度関与しているかは、外部からの観察では分かりません。
- ▪価格を掲載しない判断の背景にある取引先との関係や見積の性質は、社内の事情に属します。
- ▪採用の導線が優先されている理由が、経営判断によるものか、更新の経緯によるものかは判断できません。
この6部構成は、当研究所のすべての観察記録で共通です。根拠のない点数は出しません。LABOの約束 →
AIが読めていること、読めていないこと
AI所見のうち「比べる材料がない」という指摘は、実務の感覚とも合います。設備台数と認証は、同じ規模の同業がほぼ同じ形で書いている項目です。読み手から見ると差が出にくく、結果として価格が唯一の比較軸として残りやすくなります。相見積が増えているという違和感は、この構造から説明できる部分があります。
一方で、AIには読めていない事情もあります。受託加工では、図面を見なければ本当に何も答えられない、というのが現場の実態です。対応可能な範囲を具体的に書くことは、書いた瞬間に断りにくい引き合いを呼び込む行為でもあります。繁忙期に入っている会社ほど、この記載には慎重になります。
採用の導線が最も目立つ点も、設計の誤りとは限りません。人が採れなければ受注も増やせない、という順番が経営判断として先に立っている会社は珍しくありません。この場合、Web担当者の判断だけで位置を動かすのは難しくなります。
実務なら、どこから動かすか
最初に着手するのは、サイトの文章ではなく営業部門への聞き取りだと考えます。相見積になった案件で、相手が最初に聞いてきた質問を10件ほど集めます。その質問が、そのまま最初の画面に置く内容の候補になります。ここを飛ばして書き始めると、社内の想像で書いた文章になりやすくなります。
先送りしてよいのは、加工事例ページの整備です。写真と図面の掲載可否を取引先ごとに確認する作業は、時間がかかるわりに順番としては後になります。まずは公開許可の取りやすい自社試作品で1件だけ形を作り、書き方の型を決めておく方法があります。
巻き込む相手は、営業と製造の責任者です。何を引き受けて何を引き受けないかを決める話になるため、Web担当者だけでは決めきれません。ここを省いて文章だけ整えると、現場が対応しきれない引き合いが増え、次の改修で元の表現に戻る、という往復が起きがちです。
この所見が外れているとしたら
AI所見は「新規の見込み客がサイトを見て判断している」という前提に立っています。この前提が外れる条件があります。取引の大半が既存客からの追加発注で、新規の取引が年に数件という会社では、サイトの役割は信用の確認だけで足りている可能性があります。
その場合、最初の画面を作り替えても問い合わせ数は動きません。動くとすれば、既存客の担当者が社内で自社を説明するときの材料が増える、という別の効果です。着手の前に直近3年の新規取引の件数を確認しておくと、この判断は分かれます。数字を見ずに始めると、成果の見方まで一緒にずれていきます。
追記はスパークルの研究員によるものです。AIの所見と区別して掲載しています。
同じ観察を、あなたのサイトでも実行できます。 自動での観察に含められない社内の事情まで含めて考えたい場合は、相談室へどうぞ。