BtoBサイトで価格を出す・出さないの考え方
価格を出さない判断には理由があります。その判断が、どの段階の読み手に何を起こすかを整理します。
観察
BtoBのサービスサイトを見ていると、料金の欄でこう書かれていることがよくあります。
- 「価格はお問い合わせください」
- 「詳細はお見積りにて承ります」
- 「料金:要相談」
このページを見ていたのは、社内で導入の下調べを任された担当者でした。上司からは「いくらくらいかかるか、ざっくり調べておいて」とだけ言われています。ページを閉じるときの一言はこうでした。
「桁だけでも分かれば、持っていけるのに」
同じ日、その人は価格帯を出している別の会社のページをブックマークしていました。契約するかどうかとは別に、社内に持ち帰れる材料があったからです。
仕組み
価格を出さない判断には、たいてい理由があります。それも、実務としてまっとうな理由です。
- 案件ごとに条件が違い、単価が意味を持たない。 数量、仕様、納期、既存環境。同じ作業でも工数が数倍変わる仕事はあります
- 競合に見られる。 価格表は、競合が最も早く見にくるページのひとつです
- 既存顧客との整合が崩れる。 掲載価格より高い条件で契約している顧客がいる場合、説明が必要になります
- 数字だけで比較される。 価値の差が伝わる前に、金額の並びで判断されることを避けたい
一方で、非表示にしたときに読み手の側で起きることもあります。
BtoBの検討は、個人の意思決定ではありません。 担当者はたいてい、社内の誰かに説明する立場にいます。稟議、予算の枠取り、上長への報告。どれも、おおよその桁がないと始まりません。金額が分からない案は、社内の会議の議題に載りません。
「聞かないと分からない」は、営業と話す約束を意味します。 検討の初期段階では、まだ話す準備ができていません。何を聞かれるか分からない状態で連絡先を渡すことに、抵抗が生まれます。
比較表は、価格を出している会社を軸に作られます。 社内で3社を比べる資料を作るとき、価格欄が「要問合せ」の会社は、その欄が空白のまま並びます。空白は、検討から外す理由になりやすい形です。
よくある誤解
誤解1:価格を出せば問い合わせが増える。
増えるとは限りません。予算が合わない人が問い合わせをやめるため、件数はむしろ減ることがあります。変わるのは件数ではなく内訳です。この変化を「減った」と読むか「絞れた」と読むかで、判断は逆になります。
誤解2:出すか出さないかの二択である。
実際には中間がいくつもあります。
| 出し方 | 読み手が得るもの | 向きやすい状況 | |---|---|---| | 単価表 | 正確な費用 | 仕様が定型で、数量で決まる | | 最小構成の価格 | 下限の目安 | 構成の幅が大きい | | 価格帯(◯◯万円〜◯◯万円) | 桁 | 案件差は大きいが範囲は言える | | 過去案件の実費レンジ | 実際の相場 | 見積が完全に個別 | | 費用が変わる要因だけ | 何にお金がかかるか | 金額を出せない事情がある | | 非表示 | なし | 価格が交渉の中核にある |
「非表示」も選択肢のひとつです。問題は、二択だと思い込んだまま非表示を選んでいる場合に、中間の選択肢が検討されないことです。
誤解3:競合が出していないから、出さなくてよい。
全社が非表示の業界では、最初に出した1社に情報が集まることがあります。逆に、全社が出している業界で自社だけ非表示にすると、その空白が目立ちます。競合の状況は、追随の理由にも、差別化の理由にもなります。どちらに読むかは、自社の状況次第です。
確認方法
- 直近の問い合わせを読み返し、「まず概算を知りたい」という趣旨のものが何件あったかを数えます。この数は、価格情報を探して見つからなかった人の一部です
- 商談が予算不一致で止まった案件について、止まった時期を分けます。初回で止まったのか、提案を作った後で止まったのか。後者が多いほど、非表示のコストは社内側で発生しています
- 競合5社の料金ページを開き、上の表のどの行に当たるかを分類します
小さな実験
料金ページは作らず、既存のサービスページに1行から3行だけ足します。
- 金額を出せる場合:「これまでのご依頼は、100万円〜400万円が中心です(2025年の実績)」
- 金額を出せない場合:「費用は主に、対象拠点の数・既存システムとの連携の有無・移行するデータ量で変わります」
後者は金額を1円も書いていません。それでも読み手は、自社の条件が上振れ側か下振れ側かを見当づけられます。社内で「うちは拠点が多いから高くなりそうです」と話すことができれば、検討は次に進みます。
足した後で見るのは、問い合わせの件数だけではありません。問い合わせ本文に「予算は◯◯くらいを想定しています」と書かれるようになるかどうかを見ます。書かれるようになったら、その1行は社内の会話に届いたと読めます。