ANALYZE解剖室2026-08-013分で読めます

実績が多いほど選ばれにくくなる場合

実績の数は信頼になりますが、条件によっては「自分向けではない」という判断材料にもなります。

観察

導入実績のページに、企業ロゴが並んでいました。数えると48社。上のほうには誰でも名前を知っている大手が並び、見出しには「導入実績1,200社以上」とあります。

そのページを見ていたのは、従業員15名の会社で仕入れを担当している人でした。ひととおりスクロールして、こう言いました。

「うちみたいな規模でも、相手にしてもらえるんですかね」

その会社は小規模な依頼も日常的に受けています。ただ、ページの上でそれを示している要素はありませんでした。実績が多いことが、離れる理由として働いた形です。

仕組み

実績の提示には、性質の違う2つの働きがあります。

  1. 実在性の証明 — 取引が続いている会社であること。数が多いほど強くなります
  2. 適合性の判断材料 — 自分に近い依頼を扱っているかどうか。数ではなく、顔ぶれで決まります

枚数を増やすと1は上がります。しかし2は、並んでいる顔ぶれ次第で下がります。読み手は一覧を「この会社の標準的な取引先」として読むからです。

人は自分に近い例を探しながら読みます。近い例が1つも見つからない一覧は、「近い例がない」という情報として受け取られます。何も書いていない状態より、はっきりした判断材料になります。

ここには社内の事情も関わっています。ロゴや社名を載せるには許諾が要ります。許諾を出せるのは、広報の体制がある会社です。つまり大手に偏ります。小規模な依頼が少ないのではなく、許諾を取りに行っていないだけ、という状態が起きやすい構造です。掲載一覧は、取引の実態ではなく、許諾の取りやすさの分布になっていることがあります。

よくある誤解

誤解1:実績は多いほどよい。

多いこと自体は、実在性の側では有利に働きます。ただし顔ぶれが一方向に偏っていると、その偏りも一緒に伝わります。増やすなら、どの方向に増えて見えるかまで含めて考える必要があります。

誤解2:有名企業を前に出せば信頼が上がる。

上がるのは信頼で、下がりうるのは自己適合の感覚です。「立派な会社だが、うち向けではなさそうだ」は、否定ではなく分類です。分類されると、比較検討の対象からそもそも外れます。

誤解3:業種別に並べ替えれば解決する。

業種が同じでも、規模や体制が違えば近さは生まれにくくなります。BtoBの検討では、業種より「従業員数」「専任担当がいるか」「予算の桁」のほうが近さを決めることがあります。並べ替えの軸を業種に固定する前に、読み手が何で自分と比べているかを見たほうが早い場合があります。

確認方法

  1. 掲載している実績を、想定している主力顧客の規模で分類して数えます。「うちの主力は中小企業です」と言いながら、掲載の大半が大手になっていないかを見ます
  2. 事例本文に、依頼時の状況(担当者が何人か、何に困っていたか、どこまで内製していたか)が書かれているかを確認します。状況が書かれていると、規模が違っても近さが生まれることがあります
  3. 営業担当に「うちは小さいのですが、と言われた回数」を聞きます。言われている場合、その言葉が出る前に読まれていた画面がどこかを探します

小さな実験

実績一覧の上に、1行だけ足します。

  • 例:「ご依頼の6割は、従業員10〜50名の会社からです(2025年の受注件数ベース)」

ここで大事なのは、書く前に数えることです。数えた結果が想像と違ったら、その1行は書きません。数字が事実と合わないまま出すと、後で商談の場で崩れます。

数えてみて主力層が想像どおりだったなら、そのまま1行足します。想像と違っていたなら、実験の成果は1行ではなく、その気づきのほうになります。

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