本文へ移動
OBSERVE観察室2026-09-013分で読めます

研究テーマ:技術・価値の伝わり方

技術資料は正しいのに、なぜ顧客に伝わらないのか

正確さは伝達を保証しません。性能を証明するために書かれた資料と、自分の問題を判断するために読む読み手のずれを見ます。

記事の性質
観察の場面は、複数の事例を組み合わせた架空の例です。特定の実在企業を観察したものではありません。
想定読者
技術製品の製品ページを持つ会社の担当者
著者・確認
株式会社スパークル(研究員が確認のうえ公開)

観察

ある検査機器の製品ページを想像してください。測定精度、対応規格、測定原理の解説図、外形寸法。すべて正確で、技術的な誤りはひとつもありません。

このページを、部品メーカーの生産技術担当者が開きます。知りたいのは「うちの工程のあの検査を、これで置き換えられるのか」です。

ページを最後まで読んでも、その答えは書いてありません。書いてあるのは機械の性能であって、読み手の工程の話ではないからです。担当者は「ちゃんとした会社そうだ」という印象だけを持って、ページを閉じます。

仕組み

技術資料の多くは「性能を証明する」ために書かれます。一方、読み手は「自分の問題が解決するかを判断する」ために読みます。書く目的と読む目的がずれているので、正確に書くほど伝わる、とはならないのです。

書く側の目的

  • 性能を証明する
  • 精度・規格・原理を正確に
  • 嘘を書かない

読む側の目的

  • 自分の工程で使えるかを判断する
  • 導入したら何が変わるかを知る
  • 社内に説明できる材料を得る
fig.01書く目的と読む目的。同じページの上で、別の作業をしている。

スペックは、読み手にとっては答えではなく条件です。「精度±0.1μm」という記述は、「あなたの求める精度を満たすか」という問いの材料にすぎず、読み手は自分でその照合をしなければなりません。照合には知識と手間が要ります。手間を掛けてくれるのは、すでに導入意欲が高い読み手だけです。

つまり技術資料は、最も来てほしい「まだ本気ではない検討初期の読み手」に、最も大きな翻訳作業を課していることになります。

よくある誤解

誤解1:もっと詳しく書けば伝わる。

詳しさの方向が違います。機械の内部についての詳しさを足しても、読み手の工程との接続は生まれません。足りないのは情報量ではなく、読み手側の言葉への翻訳です。

誤解2:分かりやすくすると、技術力を疑われる。

削って易しくすることと、翻訳することは別です。スペックを全部残したまま、それぞれが「何を可能にするか」を並記することはできます。技術に強い読み手は数値を読み、そうでない読み手は並記を読みます。どちらの読み手も失いません。

確認方法

自社の製品ページを印刷し、各記述の横に「この一文は、読み手のどの問いに答えているか」を書き込んでみてください。

「当社の技術がすごい」への答えばかりで、「私の問題は解決するか」「導入したら何が変わるか」への答えがないページは、正確なまま伝わっていない可能性があります。

小さな実験

スペック表から1行だけ選び、その右に1文足してみてください。「±0.1μm — 研磨後の全数検査を、抜き取りから置き換えられる精度です」のように、数値は変えず、意味を足す書き方です。

1行でも、ページの読まれ方は変わることがあります。効果よりもまず、この1文を書くのがどれほど難しいかを体験することに価値があります。難しさの正体は、顧客の工程を知らないと書けない、という事実です。

持ち帰れる確認項目

  • 製品ページの各記述が、読み手のどの問いに答えているか
  • スペック1行に「これにより〜ができます」を足せるか

適用できない条件

  • 読み手が全員専門家である学会・研究者向けの資料

根拠・参照

  • TECH ROUTE(技術の市場化支援)の実務
この話を自分のサイトで確かめる

関連する研究ノート

この研究テーマの続き

このテーマの観察は、埋もれた技術の市場化を支援する TECH ROUTE の実務と往復しています。

TECH ROUTE(技術の市場化支援)