なぜ会社紹介から始めてしまうのか
多くのサイトが自社の説明から始まります。それが起きる構造と、最初の画面で何が失われるかを見ます。
観察
ある会社のトップページを開くと、最初の画面いっぱいに社屋の写真が広がっていました。重ねられた文字は「創業48年、地域とともに」。その下に「ごあいさつ」、さらに下に代表者の写真と「私たちについて」が続きます。
何を売っている会社なのかが分かるのは、3画面ぶんスクロールした先の「事業内容」でした。
このとき、検索から来たばかりの人の頭にあるのは、たいてい次の一言です。
「ここは何屋さんなんだろう」
この構図は、業種を問わず広く見られます。会社を紹介することと、来た人の疑問に答えることが、最初の画面で入れ替わっています。
仕組み
最初の画面が自社説明で埋まるのには、いくつかの構造的な理由があります。
理由1:最初の画面は、社内で最も意見が集まる場所です。
トップページは全員が見ます。だから全部署が意見を出します。特定の顧客層に寄せた文は「うちの◯◯事業が入っていない」と指摘されやすい。一方、会社そのものの説明は誰の領分も侵しません。全員が同意できる文だけを残していくと、自社紹介に収束していきます。
理由2:承認するのは社内の人です。
サイトの最終確認をするのは、多くの場合、社長か役員です。その人にとって最初の画面は「会社の顔」です。顔として妥当かどうかで判断されます。読み手にとって分かりやすいかどうかは、確かめる手段がないまま通過しがちです。
理由3:対面の順序をそのまま画面に写しています。
営業の現場では、名刺交換、会社紹介、そして提案という順序が定着しています。この順序自体は理にかなっています。ただし対面では、相手はすでに椅子に座っています。時間を確保して、話を聞く姿勢を作ってくれています。
サイトでは、その前提がありません。読み手は座っていません。会社紹介を聞く理由が、まだ生まれていない状態です。
よくある誤解
誤解1:会社紹介を消して、商品を前に出せばよい。
会社情報が不要になるわけではありません。BtoBでは、実在性や継続性が判断材料になります。所在地や沿革を確認してから問い合わせる人もいます。問題は有無ではなく、順序と分量です。最初の画面が「私たちは誰か」だけで終わっていることが、観察されている現象です。
誤解2:印象的なコピーを置けば解決する。
「未来を、そうぞうする。」のような抽象的な一文に置き換えても、何を扱う会社か分からない状態は変わりません。抽象度が上がるぶん、判断はさらに後ろへ延びます。自社説明が抽象コピーに変わっただけ、という結果になりやすい形です。
確認方法
- 最初の画面(スクロールしない状態)に、扱っている物・サービスを指す名詞が入っているかを見ます。「ソリューション」「サービス」ではなく、具体的な名詞かどうかで見ます
- 最初の画面の文字をすべて書き出し、主語を数えます。「私たち」「弊社」「当社」がいくつあり、「あなた」「御社」に相当する視点がいくつあるかを比べます
- スマートフォンで自社サイトを開き、指を動かさずに見える範囲だけを写真に撮って、社外の知人に見せます。「何の会社に見えますか」とだけ聞きます
小さな実験
最初の画面の見出しの下に、1行だけ足します。既存の要素は消しません。足すだけです。
形は「◯◯向けの◯◯を作っています」に固定します。
- 例:「医療機器メーカー向けに、ステンレスの精密部品を作っています」
- 例:「築30年以上の戸建てを対象に、水まわりの改修をしています」
会社紹介を削る提案は社内で反発を招きやすいのに対し、1行を足す提案は通りやすいという違いがあります。まずは通る形で入れて、その1行があるページとないページで、次のページへ進んだ人の割合を比べます。