問い合わせフォームで聞きすぎる会社
入力項目は、送信前の心理的な費用です。何を聞くかは、誰に来てほしいかの表明になります。
観察
ある会社の問い合わせフォームを開いて、項目を数えました。
会社名、部署名、役職、氏名、氏名(かな)、メールアドレス、メールアドレス(確認)、電話番号、郵便番号、住所、従業員数、ご予算、導入時期、お問い合わせ内容。14項目。このうち12項目に赤い星が付いていました。「お問い合わせ内容」には「200文字以上でご入力ください」と添えられています。
そこまでスクロールした人の手が止まります。
「まだ何も決まっていないのに、予算を書けと言われても」
この人は、その日は送信しませんでした。競合他社の資料を先にダウンロードして、比較の作業を始めています。
仕組み
入力項目は、送信の前に読み手が払う費用です。かかるのは時間だけではありません。
判断の費用。 「ご予算」「導入時期」は、まだ決めていないことを、その場で決めろという要求になります。適当に選ぶと後で辻褄が合わなくなる。だから手が止まります。時間よりも、この負担のほうが重いことがあります。
開示の費用。 電話番号を必須にすると、「電話がかかってくる」と読まれます。役職欄は、決裁権がないことを自分から書く欄になり得ます。書きたくない理由は、面倒だからとは限りません。
立場の費用。 部署名や従業員数は、自社の規模を先に開示させます。「小さすぎて相手にされないかもしれない」と考えている人にとって、これは送信をやめる理由になります。
そして、何を聞くかは、誰に来てほしいかの表明になります。予算と導入時期が必須のフォームは、「予算と時期が決まっている人だけどうぞ」という掲示です。それが意図どおりなら、フォームは正しく働いています。意図ではないなら、情報収集の段階にいる人を、静かに外し続けていることになります。
営業側の事情も本物です。項目が少ないと、内容の薄い問い合わせが増え、確認の電話が要ります。担当を割り振れず、対応が遅れることもあります。項目の多さは、多くの場合、過去の非効率への対処として積み上がっています。だからこれは、良し悪しではなく、取引の問題として見たほうが扱いやすくなります。
よくある誤解
誤解1:項目を減らせば問い合わせが増える。
増えるのは送信数です。中身の薄い送信が増えると、営業の工数が増え、返信が遅れ、結果として成約は動かないこともあります。減らす前に、増えた送信を誰がどう捌くかを決めておかないと、実験の結果を読み違えます。
誤解2:必須を任意に変えればよい。
任意にしても、項目が画面にある限りフォームは長く見えます。人は開いた瞬間の長さで判断します。減らすなら、表示ごと減らすか、送信後のやり取りに回すかを選ぶことになります。
誤解3:聞かなければ情報が手に入らない。
初回の返信を書くために本当に要る情報は、多くの場合それほど多くありません。残りは、返信の中で聞けます。フォームは「全部聞く場所」ではなく「会話を始める場所」として設計することもできます。
確認方法
- 必須項目を1つずつ見て、「最初の返信を書くために要るか」で二分します。要らない側に入った項目が、いま送信を止めている候補です
- フォームを開いた数と、送信された数を比べます。差が大きい場合、離脱はフォームの中で起きています
- 電話番号を必須にしている場合、実際に電話をかけている割合を営業に聞きます。ほとんどかけていないなら、その項目は費用だけを発生させています
小さな実験
必須項目を1つだけ任意にします。候補は「電話番号」か「ご予算」です。どちらも、読み手の側で負担が大きく、初回返信では使われないことが多い項目です。
変えるのは1つだけにします。2つ同時に変えると、どちらが効いたのか分かりません。
2週間ほど、送信数と、送信された内容の中身を並べて見ます。見るのは数だけではありません。任意にした項目に、それでも自分から書いてくる人がどれくらいいるかも見ます。書いてくる人が多ければ、その項目は必須にしなくても集まる情報だったことになります。